乳がんと告げられたら、すぐに治療が始まる。
当時の私は、そう思っていました。
けれど実際には、がんの広がりや性質を調べるための検査が続き、治療方針が決まるまでには時間がかかりました。
検査を受けるたびに不安になり、結果を待つ間は、悪いことばかりを想像していました。
今振り返ると、乳がんと告げられてから治療が始まるまでの約2か月間が、私にとって精神的に最もつらい時期だったと思います。
この記事では、まだ自分の状態も治療方針も分からなかったあの頃、私が何を考え、どのように治療へ進んでいったのかを振り返ります。
乳がんと告げられたら、すぐに治療が始まると思っていた
2013年6月、私は乳がんと診断されました。
乳がんと告げられたとき、頭に浮かんだのは自分のことよりも家族のことでした。
「私がいなくなったら、家族はどうやって暮らしていくのだろう」
「みんなは大丈夫なのかな」
怖くてたまらないのに、家族の前ではしっかりしなければと思っていました。
そして心の中では、
「絶対にがんに負けられない」
そう何度も自分に言い聞かせていました。
けれど、乳がんと分かったからといって、すぐに治療が始まったわけではありません。
大きな病院を紹介され、がんの広がりや体の状態を確認するための検査が続きました。

乳がんと分かったのだから、早く治療を始めてほしい。
当時の私は、そう思っていました。
ところが、検査を受けても、その日にすべての結果が分かるわけではありません。
次の検査の日を待ち、検査を受け、今度は結果を聞く日を待つ。
その繰り返しでした。
乳がんと告げられてから治療が始まるまでの約2か月間は、今振り返っても、私にとって精神的に最もつらかった時期だったと思います。
病名は分かっても、自分の状態が分からなかった
「乳がんです」
病名は分かりました。
けれど、その時点では、私の乳がんがどのくらい広がっているのか、どのような性質なのか、どのような治療を受けることになるのかは、まだ分かっていませんでした。
病名は分かっても、検査結果がそろうまでは、その先が見えない状態でした。
検査が増えるたびに、私は不安になりました。
「こんなにたくさんの検査を受けるということは、早期ではないのかな」
「どこかに転移しているのではないか」
「手遅れだったらどうしよう」
今思えば、治療方針を決めるために必要な検査を、一つずつ受けていたのだと思います。
けれど当時の私には、検査が増えることそのものが、悪い結果につながっているように感じられました。
見た目は、それまでの私と何も変わりません。
強い痛みがあるわけでもなく、普通に歩き、家事もしていました。
それなのに、突然「乳がん患者」になった。
頭では分かっていても、気持ちが現実についていきませんでした。

昨日までと同じ自分に見えるのに、どうして私はがん患者なのだろう。
その現実を受け止めるには、時間が必要でした。
検査よりも、結果を待つ時間が怖かった
治療方針を決めるため、私の場合はCT、MRI、骨シンチ、血液検査などを受けました。
検査の種類や数は、がんの状態や医療機関によって異なります。
検査を受けるたびに緊張しましたが、私が本当につらいと感じたのは、検査そのものよりも、結果を聞くまでの時間でした。
「どこかに転移していたらどうしよう」
「治療が難しい状態だったら?」
そんな考えが、何度も頭の中を巡りました。
考えても結果は変わらないと分かっているのに、不安を止めることができませんでした。
夜、布団に入っても眠れず、家族が寝静まったあとも、一人で悪い結果ばかりを想像していました。
次の診察日までの数日間が、とても長く感じられました。

検査を受けている時間よりも、何も分からないまま結果を待つ時間の方が、私にはずっと怖く感じられました。
答えが出ないまま過ごす時間は、まるで自分だけ時間が止まっているようでした。
不安になるほど、夜中まで乳がんを検索した
乳がんと告げられてから、私は毎日のようにスマートフォンで情報を調べていました。
「乳がん 治療法」
「抗がん剤 副作用」
「乳がん 生存率」
思いつく言葉を次々と入力し、安心できる答えを探していました。
けれど、検索しても、自分の乳がんのタイプや治療方針はまだ決まっていません。
自分と同じ状態なのか分からないまま、厳しい治療経過や、思うような結果にならなかった体験談を読むと、その人の出来事が自分の未来のように思えてしまいました。
調べれば安心できると思っていたのに、実際には、調べるほど不安が大きくなっていったのです。
夜中までスマートフォンを手放せず、眠れないまま検索を続けた日もありました。

安心したくて調べているのに、どうしてこんなに怖くなるのだろう。
そんなことを何度も思いました。
そこで私は、少しでも治療に前向きなイメージを持てるように、「抗がん剤治療を受けて良い結果につながった」という体験談を選んで読むようになりました。
それは、良い結果だけを信じたかったからではありません。
これから受ける治療を、怖いものだけにしたくなかったのだと思います。
また、検査や治療について確認するときは、国立がん研究センターの「がん情報サービス」など、発信元が分かる情報を見るようにしました。
今振り返ると、すべての情報を集めようとするのではなく、信頼できる情報源に絞ることも、自分の心を守るために必要だったと思います。
治療が始まらない焦りと、主治医への迷い
検査を受けながら結果を待つ中で、私にはもう一つ大きな迷いがありました。
これからの治療を、どの先生にお願いするのかということです。
最初に紹介された病院で、そのまま治療を受けるつもりでいました。
けれど、診察を受ける中で、
「この先生に治療をお願いして、私は本当に納得できるだろうか」
という思いが残りました。
一方で、別の医師の意見を聞けば、治療がさらに遅れてしまうのではないかという焦りもありました。
乳がんと分かっているのに、まだ治療が始まらない。
そのことが怖くて、早く決めなければという気持ちと、後悔しないように選びたいという気持ちの間で揺れていました。

早く治療を始めたい。
でも、これから命を預ける先生だからこそ、納得して決めたい。
悩んだ末に、私はセカンドオピニオンを受けることにしました。
その後、ウィッグを探して訪れた美容室でM先生のことを知り、診察を受けることになりました。
M先生から治療について説明を受け、
「術前抗がん剤でいきましょう」
「一緒に頑張りましょう」
と言ってもらったとき、ようやく自分が進む方向が見えたように感じました。
怖さがなくなったわけではありません。
それでも、「何が起きるのか分からない時間」から、「これから治療に向かう時間」へ、気持ちが少しずつ動き始めました。
第30話では、最初の主治医への迷いから、セカンドオピニオンを受け、M先生に治療をお願いするまでの経緯を詳しく書いています。
あの頃の私を支えてくれたこと
治療が始まるまでの約2か月間を、私は上手に乗り越えられたわけではありません。
不安で眠れない日もあり、情報を調べすぎて、さらに落ち込んだこともありました。
それでも今振り返ると、不安の中で行ったことの中には、その後の治療を支えてくれたものがありました。
信頼できる情報に絞って調べた
インターネットには、さまざまな情報や体験談があります。
体験談に励まされることもありましたが、治療や検査について確認するときは、公的機関や医療機関など、発信元が分かる情報を見るようにしました。
すべての情報を集めようとするのではなく、「今の自分に必要なことだけを確認する」と決めることで、少しずつ気持ちを落ち着かせられるようになりました。
診察で聞きたいことをメモした
診察室に入ると、緊張して、聞きたかったことを忘れてしまうことがありました。
そこで私は、疑問に思ったことや不安なことを、診察前にメモするようにしました。
「この検査は何を調べるためですか」
「治療はいつ頃始まりますか」
「私の場合は、どのような治療になるのでしょうか」
すべての不安がなくなるわけではありません。
それでも、分からないことを一つずつ確認することで、「聞きたかったのに聞けなかった」という心残りを減らすことができました。
家族に自分の気持ちを話した
家族を心配させたくないという思いから、私は最初、不安を自分の中に抱え込んでいました。
けれど、一人で考えていると、不安はどんどん大きくなります。
怖いこと、分からないこと、これからの家族のこと。
少しずつ言葉にして話すことで、「私一人で治療に向き合うのではない」と思えるようになりました。
納得できる医師を探した
セカンドオピニオンを受けることが、すべての人に必要だとは思っていません。
私の場合は、治療前に立ち止まり、別の医師の意見を聞いたことで、納得して治療に進むことができました。
治療が遅れるのではないかという不安はありましたが、疑問を残したまま始めるよりも、私には必要な時間だったと思います。

不安をすぐになくすことはできませんでした。
それでも、分からないことを尋ね、信頼できる人に話し、自分が納得できる道を探したことが、治療へ進む力になりました。
今、検査結果を待っている方へ伝えたいこと
この記事を読んでくださっている方の中には、乳がんと告げられたばかりの方や、今まさに検査結果を待っている方もいるかもしれません。
「早く治療を始めてほしい」
「どうしてこんなに検査が必要なのだろう」
「悪い結果だったらどうしよう」
そんな思いで、落ち着かない毎日を過ごしている方もいると思います。
私も、乳がんと告げられてから治療が始まるまでの時間を、とても長く感じていました。
検査を受けるたびに不安になり、結果を待つ間は、悪いことばかりを想像していました。
先が見えない時期に、不安にならないようにするのは難しいことです。
無理に前向きにならなくてもいい。
すぐに「乳がんになった自分」を受け入れられなくてもいい。
怖い、つらい、どうしたらよいか分からない。
そう感じる自分を、責めなくてもよいのだと思います。

不安になるのは、心が弱いからではありません。
それだけ大きな出来事に、今、向き合っているということだと思います。
一人で抱えきれないと感じたときは、主治医や看護師に気持ちを伝えたり、がん相談支援センターに相談したりする方法もあります。
治療のことだけでなく、家族、仕事、生活、お金のことなども相談できます。
すべてを一度に解決しようとしなくても大丈夫です。
今日確認できることを一つ確認する。
誰かに不安を一つ話してみる。
私も、怖さを抱えたまま、できることを一つずつ重ねて治療へ進みました。
乳がん告知後の不安についてのQ&A
Q.乳がんと診断されたら、すぐに治療は始まらないのでしょうか?
A.私の場合は、乳がんと診断されたあと、がんの広がりや体の状態を確認し、治療方針を決めるための検査を受けました。必要な検査や治療が始まるまでの期間は、がんの状態や医療機関などによって異なります。
治療開始の時期が心配な場合は、「この検査は何を調べるためですか」「結果はいつ分かりますか」「治療はいつ頃始まる予定ですか」と、担当医や看護師に確認してよいと思います。
Q.インターネットで調べるほど、不安が大きくなります
A.私も、安心できる答えを見つけたくて検索していたのに、かえって怖くなったことが何度もありました。
体験談は、その方自身の病状や治療について書かれたものです。同じ乳がんでも、がんのタイプや進行度、受ける治療などは一人ひとり異なります。検査や治療について確認するときは、公的機関や医療機関など、発信元が分かる情報に絞ることも一つの方法です。
検索を続けてつらくなるときは、いったんスマートフォンを閉じて、次の診察で聞きたいことをメモしておくことで、私は気持ちを整理しやすくなりました。
Q.Q.告知後から気持ちが落ち込んでいます。相談してもいいのでしょうか?
A.不安や落ち込みを、一人で我慢する必要はありません。
眠れない、食事がとれない、何も手につかないなど、日常生活に影響する状態が続く場合は、主治医や看護師に伝えてください。がん相談支援センターでは、治療だけでなく、気持ち、家族、仕事、生活、お金のことなども相談できます。

「こんなことを相談してもいいのかな」と遠慮しなくても大丈夫です。
不安に感じていること自体が、相談してよいことなのだと思います。
さいごに|あの2か月が私に残したもの
乳がんと告げられてから、治療が始まるまでの約2か月。
今振り返っても、私にとって、人生の中で心が最も大きく揺れた時期でした。
「私はどうなるのだろう」
「治療は受けられるのだろうか」
「私がいなくなったら、家族は大丈夫だろうか」
答えの出ないことを何度も考えながら、毎日を過ごしていました。
あの時間を、「必要な時間だった」ときれいに言い切ることはできません。
できることなら、あれほど不安な思いはしたくありませんでした。
それでも、あの2か月の中で、私は少しずつ、自分が納得できる治療を選びたいと思うようになりました。
分からないことは、医師に尋ねること。
不安な気持ちは、一人で抱え込まず誰かに話すこと。
そして、自分の命に関わることだからこそ、自分の気持ちを置き去りにしないこと。
それが、今振り返って思う、あの時間から得た気づきです。

すぐに前を向けなくても大丈夫。
私も、怖さを抱えたまま、一歩ずつ治療へ進みました。
その後、私は抗がん剤治療、手術、放射線治療へと進みました。
けれど、放射線治療後には肺の病気を発症し、長期にわたってステロイド治療を続けることになりました。
次回は、ステロイド治療による骨への影響に備えて主治医から処方され、10年間続けてきたビタミンDについて、私自身の経験を振り返ります。
第43話はこちらから↓


