乳がんの治療中、私は何度も心が折れそうになりました。
検査、抗がん剤、手術、放射線。検査や治療が一つ終わるたびに「ここまで来た」とホッとするのですが、少しすると、また次の不安がやってきます。
「この先、私はどうなるんだろう」
怖くて眠れない夜もありました。
私は決して、最初から「メンタルが強い人」だったわけではありません。心が揺れるたびに、自分なりに気持ちを立て直す方法を探してきました。
今振り返ると、その小さな積み重ねが、私にとっての「心の筋トレ」だったのだと思います。
この記事では、治療中の私を支えてくれた6つのことを振り返ります。
「もっと強くならなくちゃ」と思っていた治療中の私
以前の私は、メンタルが強い人というのは「何があっても前向きでいられる人」だと思っていました。
でも、乳がんになって、その考えは少しずつ変わっていきました。
治療中は、体のつらさだけでなく、いつも心のどこかに不安がありました。
検査結果を聞く前や、診察室に呼ばれるのを待っているとき。
抗がん剤の日が近づいてくると、それだけで気持ちが重くなることもありました。
不安が大きくなると、胸がドキドキしたり、呼吸が浅くなったりして、まだ起きてもいないことまで次々と考えてしまうこともありました。

治療そのものだけでなく、気持ちの揺れとも向き合っていました。
そんな自分に対して、最初の頃は、
「こんなに落ち込んでいたらダメ」
「もっと頑張らなくちゃ」
と、自分を奮い立たせようとしていました。
けれど、体がつらいときに心まで無理をさせようとすると、かえって苦しくなってしまうんですよね。
抗がん剤治療のときは、特にFECという治療を受けていた時期に「もうやめたい」と思いました。
治療を続けるうちに、
心が強いというのは、落ち込まないことではないのかもしれない。
そう思うようになりました。
不安になったり、心が沈んだりする日があっても、そのままずっとそこにいるわけではありません。
少し休んだり、誰かに話したりしながら、また自分のペースに戻っていく。
それからは、「もっと強くならなくちゃ」と思うよりも、「今の私は、どうしたら少し楽になれるだろう」と考えるようになりました。
特別なことをしようとしたわけではありません。
治療生活の中でも無理なくできそうなことを、一つずつ試してみる。
その積み重ねの中で、少しずつ自分なりの「心の整え方」が見つかっていきました。
治療中に見つけた6つの「心の筋トレ」
ここからは、治療中の私を支えてくれた6つの習慣を振り返ります。
どれも、その日の体調や気持ちに合わせてできる、小さなことばかりです。
今も続けているものもあれば、治療中に特に意識していたものもあります。

大きな方法ではなく、小さな工夫の積み重ねでした。
❶「今日はつらい」と、そのまま認める
治療が始まってから、自分でも驚くほど気持ちの波が大きくなりました。
昨日は「よし、頑張ろう」と思えていたのに、次の日には何もかも嫌になってしまう。
理由もなく涙が出てくることもありました。
最初の頃は、そんな自分に対して、
「しっかりしなくちゃ」
「もっと前向きにならなくちゃ」と思っていたんです。
でも、気持ちを無理に変えようとしても、うまくいきませんでした。
それなら、

「今日は不安なんだな」
「今日はつらいんだな」
と、その日の自分をそのまま受け止めてみよう。
そう考えるようになりました。

無理に元気になるより、まず自分の気持ちに気づく日もありました。
不安や悲しさがすぐになくなるわけではありません。
それでも、「こんな気持ちではダメ」と自分を責めなくなるだけで、心が少し楽になることがありました。
つらい日は、つらいままでいい。
そう思えるようになったことも、治療中の私を支えてくれた一つだったと思います。
❷ できなかったことより、「今日できたこと」を見つける
治療中は、乳がんになる前なら当たり前にできていたことが、思うようにできない日がありました。
掃除ができない。
買い物に行けない。
食事を作る元気もない。
そんな日は、つい「今日も何もできなかった」と思ってしまいます。
でも、よく考えてみると、本当に何もしていないわけではありませんでした。
病院へ行った。
薬を飲んだ。
食欲がなくても少しは食べた。

食卓に向かえたことも、その日の私にとっては小さな前進でした。
それだけでも、治療中の私にとっては十分頑張った一日だったんですよね。
それからは、できなかったことばかりを見るのではなく、
「今日は何ができたかな」
と考えるようになりました。
朝起きられた。
洗濯ができた。
病院へ行って治療を受けられた。
本当に小さなことでも、「今日はこれができた」と思えると、少しだけ自分を認められるようになりました。
誰かに褒めてもらうようなことでなくてもいい。
その日の自分ができたことを、自分でちゃんと見つけてあげる。
この小さな習慣が、治療中の私の自信を少しずつ取り戻してくれたように思います。
❸ 不安が大きくなったら、まず深呼吸
検査結果を待っているときや、治療を受ける前は、どうしても緊張してしまいます。
深呼吸を教えてもらったのは、入院していたときだったと思います。
入院中は看護師さんとお話しする機会が多かったので、その中で教えてもらったのだと思います。
鼻からゆっくり息を吸って、口からゆっくり吐く。

呼吸を整えることは、不安の波にのまれないための小さな支えでした。
最初は、
「こんなことで気持ちが変わるのかな」
と半信半疑でした。
でも、呼吸に意識を向けながら何度か繰り返していると、頭の中をいっぱいにしていた不安から、ほんの少し距離を置けることがありました。
もちろん、深呼吸をしたからといって、不安そのものがなくなるわけではありません。
それでも、
「今、私はすごく緊張しているんだな」
と自分の状態に気づき、いったん気持ちを落ち着かせる時間を持つことはできました。
それからは、検査や診察の前だけでなく、家で不安が大きくなったときにも、まずゆっくり呼吸することを意識するようになりました。
私にとって深呼吸は、不安な気持ちに飲み込まれそうなとき、自分を少し落ち着かせるための小さな習慣になりました。
❹ 自分のための時間を、あえて持つ
治療中でも、家にいると家事が目に入ります。
洗濯や掃除、食事の支度。
体がしんどくても、「これくらいはやらなくちゃ」と、つい動いてしまうことがありました。
でも、無理をしたあとは体だけでなく、気持ちにも余裕がなくなってしまいます。
そこで「何かをする時間」だけでなく、「何もしない時間」も意識して持つようになりました。
私の場合、そのひとつがスキンケアでした。
毎朝の洗顔のあとと、シャワーを浴びたあと。
当時はSK-IIのスキンケアを使っていました。
スキンケアをしている間は、気持ちが落ち着きました。

鏡に向かうひとときが、慌ただしい毎日の中の小さな区切りになっていました。
ほんの短い時間ですが、「今は自分のための時間」と思える時間でした。
もちろん、何もせず横になって過ごす日もあります。
以前なら、そんな日の自分を責めていたかもしれません。
でも治療中の私には、休む時間も必要でした。
「今日は何もできなかった」ではなく、
「今日は体を休ませる日だった」
そう考えるようになってから、休むことへの後ろめたさも少しずつ減っていきました。
❺ 病気を忘れられる時間をつくる
乳がんになってからは、朝起きた瞬間から病気のことが頭に浮かぶようになりました。
治療のこと、副作用のこと、検査のこと、これから先のこと。
気づけば、一日のほとんどを「乳がん」のことを考えて過ごしている日もありました。
そんな私にとって、病気のことを少しだけ忘れられる時間は、とても大切でした。
その一つが、韓国ドラマです。
何もする気になれない日や、夜眠る前によく見ていました。
見ている間はドラマに集中できるので、治療のことを忘れられる時間になっていました。

夢中になれる時間は、心を休ませる大切な避難場所でした。
その日の体調や気分で見る作品を変えていたことは第27話に書きましたが、今振り返っても、あの時間にはずいぶん助けられました。
少なくとも私にとって、好きなことを楽しむ時間は、病気から逃げるためのものではありませんでした。
治療のことばかり考えて疲れてしまった心を、少し休ませる時間だったのだと思います。
❻「できなかった」で終わらせず、次を考える
治療中は、思うようにいかないことがたくさんありました。
体調が悪くて約束を断ったり、やろうと思っていた家事ができなかったり、楽しみにしていた予定を変更しなければならないこともあります。
そんなときは、
「またできなかった」
と、自分を責めてしまうことがありました。
でも、治療生活が続くうちに、予定どおりにできないことまで自分のせいにしていたら、心が疲れてしまうと気づきました。
それからは、「できなかった」で終わるのではなく、

「じゃあ、次はどうしよう」
と考えてみるようになりました。
今日は体調が悪かったから、しっかり休もう。

できなかった日も、その日の自分に合う選び方がありました。
できなかったことは、元気になったときにやればいい。
予定を変えたとしても、それは失敗ではなく、その日の体調に合わせて選び直しただけ。
そんなふうに考えると、自分を必要以上に責めることが少なくなっていきました。
治療中は、自分の力だけではどうにもできないこともあります。
だからこそ、できなかったことにとらわれ続けるより、「今の自分にできることは何だろう」と考える。
この考え方も、長い治療生活の中で少しずつ身についたものです。
「毎日笑顔で」という主治医の言葉を、今はこう受け止めています
治療が始まる頃、私は主治医に、
「先生は薬で治療をしてくださいますが、私にできることはありますか?」
と尋ねたことがあります。
そのとき返ってきたのが、

「毎日、笑顔でいてください」
という言葉でした。

あのひと言は、あとから意味が変わっていきました。
このときのことは第9話で詳しく書いているので、ここでは繰り返しません。
当時の私は、「笑顔でいなくちゃ」「前向きでいなくちゃ」と受け止めていた部分もあったと思います。
でも、長い治療を経験した今は、少し違う受け止め方をしています。
笑えない日は、無理に笑わなくてもいい。
つらいときは、「つらい」と言っていい。
そして少し心が落ち着いたときに、自分がほっとできる時間を見つければいい。
あのとき先生が、どんな思いで「毎日、笑顔でいてください」と言ってくださったのか、本当のところは分かりません。
ただ今の私は、あの言葉を、病気のことだけで毎日をいっぱいにせず、自分の心が少しでも楽になれる時間を大切にしていいという言葉として受け止めています。
治療中、何度も思い出した先生の言葉。
振り返ってみると、それも私の心を支えてくれた一つでした。
「心の筋トレ」は、強くなることではなく「戻り方」を増やすことでした
6つのことを続けたからといって、不安がなくなったわけではありません。
治療が終わってからも、ふとした瞬間に再発のことが頭をよぎることがあります。
そんなときのために、6つのうち「自分のための時間を持つ」「病気を忘れられる時間をつくる」「『できなかった』で終わらせず、次を考える」の3つは、今も続けています。
残りの3つは、治療中の私が特に意識していたことでした。

大事だったのは、折れないことより戻れることでした。
以前と少し違うのは、心が沈んだときに、そのときの自分に合った方法を選べるようになったことです。
私は乳がんになって、突然強い人になったわけではありません。
何度も心が揺れ、そのたびに自分なりの立て直し方を覚えていったのだと思います。
折れない心を手に入れたのではなく、揺れたときの自分の戻し方を知った。
それが、長い治療生活の中で私が身につけた「心の筋トレ」でした。
心の持ち方のほかに、私を支えてくれたもの
治療中の私の心を支えてくれたのは、気持ちの持ち方だけではありませんでした。
長い治療生活の中で、もう一つ大きな安心につながっていたのが、「お金への備え」です。
治療費だけではなく、入院や通院、ウィッグなど、治療が始まってから必要になったものは思っていた以上にたくさんありました。

先の見えない治療の中で、備えがあることは一つの安心になっていました。
もし、あのとき備えがなかったら——。
次の記事では、乳がん治療からその後までを振り返りながら、私が実際に感じた「治療とお金」について書いています。
第45話はこちらから↓
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