夫が旅立った直後。私を動かした「大切な約束」
夫が旅立った直後、私の心は、まだその事実を全く受け止められずにいました。
頭では次から次へと確認しなければならない葬儀の手配を処理しつつも、動かなければならない自分と、置いてけぼりの心がバラバラになっていくような、どこか現実味のない時間が流れていました。
そんな言葉にできない混乱の中で、私が足を止めずに動くことができたのは、自宅に戻った夫の傍らで語りかけた言葉があったからです。

「ちゃんとお通夜も、お葬式もするからね」
そう伝えた以上、それは私にとって「夫との約束」になりました。

夫との約束が、私を動かしていました。
そして「泣くのは、すべてを終えてからにしよう」と自分に固く誓うことで、悲しみで崩れそうになる私を一歩ずつ前へ進ませていたのです。
少しでも長くそばにいたくて。私たちが選んだ「エンバーミング」
夫が旅立ったあと、私や家族の心に一番に湧き上がってきたのは「一分一秒でも長く一緒にいたい」という切実な願いでした。
過酷な病気と闘い抜いた夫を、できるだけきれいで穏やかな姿のまま見送ってあげたい。
その純粋な思いから、私たちはエンバーミング(お体を衛生的に保ち、生前に近い自然な姿に整える処置)をお願いすることにしました。
処置を終え、布団に横たわる夫は、まるで心地よく眠っているだけのようで、「声をかければ、またいつものように起きてくれるのではないか」と思えるほど優しい表情をしていました。

少しでも長く、穏やかな時間を一緒に過ごしたい。その思いで選んだ時間でした。
時間の経過によるお体の変化を心配することなく、生前のような夫がそこにいてくれたことで、私たちは「まだ一緒にいられる」という安心感に包まれました。
この時間が、少しずつ現実を受け入れるための、かけがえのない心の準備期間となったのです。
家族葬ではなく、一般葬にすると決めた理由
遺された私たちが決めなければならない大きな決断のひとつが、葬儀の形でした。
夫が緩和ケア病棟に入院していた頃、医療スタッフの方から「万が一のときを見据えて準備をしておくと慌てずに済みます」とアドバイスをいただき、私たちは少しずつ心の準備や家族でのお別れを進めてきました。
私たちの周りでも、身内だけで静かに見送る「家族葬」という選択肢は自然に頭にありました。
けれど迷った末に、私たちは「一般葬」という形を選びました。

一般葬を選んだのは、夫が大切にしてきたご縁を、きちんと見送りの場につなげたかったからでした。
その理由は、夫が生涯をかけて築いてきた大切な社会とのつながりを、私たち家族だけで閉じてしまいたくなかったからです。
夫を慕ってくださる会社の方々など、ご縁のあったたくさんの方々にきちんとお別れをしていただくこと。
それこそが、夫が力強く生きてきた証を胸に刻み、私たちが前を向いて見送るために必要なのだと、家族で話し合って決断しました。
泣くのはすべて終えてから。お通夜の会場へ
お見送りのカタチに、どれが正解でどれが間違いということはありません。
大切なのは、家族が納得できる形で見送れることなのだと思います。
本当を言えば、こんなふうにお別れの日を迎えることなんて嫌でした。

ずっとずっと、そばにいてほしかった。
けれど、もう巻き戻せない現実の中で、今の私にできることはすべてやり遂げてあげたい。
その一途な思いだけが、私を支えていました。
悲しみを感じる隙間も作らず、確認し、決め、動き続ける。
涙を心のずっと奥底に封じ込めたまま、私は張り詰めた緊張感とともに、いよいよお通夜の会場に立ちました。

会場に立った瞬間、いよいよ本当のお別れが始まるのだと感じました。
しんと静まり返った空間に並ぶ椅子と、祭壇の中で穏やかに微笑む夫の遺影。

それらを目の当たりにしたとき、いよいよ本当のお別れが始まるのだと息を呑みました。
次回は、張り詰めた気持ちのまま迎えたお通夜の時間について綴ります。
同じように迷うご家族へ。一般葬やエンバーミングを選んだ背景の記録
(※この記事は、夫を見送った私自身の体験をもとに書いています。葬儀の形やエンバーミングの考え方は、ご家族の状況や地域によって異なりますので、ご自身たちに合った形を選んでください)
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
大切な人を見送るための準備は、時間がない中で多くの決断を迫られ、本当に孤独で不安なものです。
私たち家族も何度も悩み、「家族葬か一般葬か」「エンバーミングをどうするか」など、その都度最善を信じて決断を重ねてきました。
同じように迷っている方が、少しでも落ち着いて考えるきっかけになればと思い、当時の迷いや決断の記録をこの記事に残しました。

あのときの迷いや決断を、同じように悩むご家族のために残したいと思いました。

お見送りのカタチに、正解はありません。
どうか、ご家族が納得できる形で、大切な人を見送る時間を選べますように。
夫との闘病の時間をnoteにも残しています。
治療の選択、家族としての迷い、たくさんの想いを綴っています。↓

