「年末まで」と言われた命。病室に再び響いた笑い声
もう、二度と笑えないと思っていました。
「みんなに会ってもらおう」
その決意に応えるかのように、夫の意識が戻りました。
病室には再び、懐かしい友人たちの笑い声が響き始めました。
一時は「年末まで」と言われていた時間。けれど夫は、私たち家族も驚くような生命力を見せてくれたのです。
厳しい現実の中で、それでも確かに幸せだった12月の記憶。
奇跡が手繰り寄せた「最後のお正月」までの道のりを綴ります。
夫の命を支えた「オレンジ色」と「水色」
12月半ば、急転直下で始まった入院生活。
けれど、病室には不思議と穏やかな日常が流れ始めました。
毎日のように病院へ通い、夫の顔を見られること。
それが、この頃の私の何よりの「楽しみ」になっていたのです。

毎日のように病院へ通い、夫の顔を見られること。
入院した頃とは違い、この時期の夫はもう、まともな食事を摂ることができなくなっていました。
そんな夫の命を繋いでいたのは、意外なものでした。

「おいしいな」
シュワっと弾ける、ファンタオレンジ。
冷たくて甘い「ガリガリ君」のソーダ味。
この二つだけが、夫が口にできる楽しみであり、気力を支える存在でした。
「おいしい?」と聞くと、小さく頷く夫。
それは、治療のためではなく、彼にとっての「生きている証」のようなものでした。
それだけで、十分でした。
「おいしい?」と聞くと、小さく頷く夫。
そんな何気ないやり取りが、私たちにとってのかけがえのない日常になっていきました。
枕元のクリスマスプレゼント
クリスマスの前の日、夫に「何が欲しい?」と尋ねると「スニーカーが欲しい」という答えが返ってきました。
もう自力で歩くことが難しい状態でしたが、私は子供たちと一緒に、夫によく似合う一足を選びに行きました。
もう履けないかもしれないと、どこかで分かっていながら、それでも「欲しい」と言ったその一言が、どうしても頭から離れませんでした。
病室でプレゼントを渡すと、夫は少し照れたように、そしてどこか寂しげに笑っていました。

もっと元気な時に、こんなスニーカー履いておけばよかったな。ありがとう。
その言葉の裏にあった、やり残したことへの想いと、それでも伝えてくれた感謝。
そのスニーカーは、再び歩き出す「新しい日常」への希望として、枕元にそっと置かれました。
奇跡は、まだ終わらない
今、目の前にいる夫が、少しでも笑えること。
「美味しいね」と笑い合える一瞬があればいい。
どんな形でもいいから、ただ、この時間が一日でも長く続いてほしい。
その時の私たちは、まさか本当に家に帰れるとは思っていませんでした。
そう願っていた私たちに、さらに思いもよらない出来事が訪れました。

医師から告げられた、ひとつの言葉。
「お家へ帰りましょうか」
枕元のあのスニーカーが、本当に家まで連れて帰ってくれる。
こうして物語は、家族全員で過ごした、かけがえのない「最後のお正月」へと続いていきます。
【さいごに】正解を探すより、「今」の笑顔を信じること
「会わせてあげたい」という、私の願い。
今の姿を人に見せることが、夫にとって本当に幸せだったのか……。
その答えは、今も分かりません。
けれど、あの時。 目の前で夫が見せてくれた、あの柔らかな笑顔。
「美味しいね」と笑い合えた、あのかけがえのない一瞬。
「会わせてあげたい」という願いも「美味しいね」と笑い合える一瞬も。
それがもし私のエゴだったとしても、 あの瞬間の喜びだけは、間違いなく「真実」でした。
正解を探して立ち止まることよりも、 その一瞬、二人で笑い合えたことを信じる。
ただそれだけで、十分だったのだと思います。
もし今、大切な人のために葛藤の中にいる方がいたら、伝えたいです。
正解がわからなくても、あなたが「今」を大切に想う気持ちそのものが、 大切な人への、何よりの贈り物になるのだと、私は信じています。
あの愛おしい時間を、決して無駄にしないために。
私たちの軌跡をここに書き残していこうと思います。
同じ後悔をしないために。私たちの8ヶ月の全記録を公開しています。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
旅行の直後に訪れた急激な体調悪化。
そして緩和ケア病棟への入院。
在宅医療の期間は短く終わってしまいましたが、私たちはその時々で、家族として悩み、迷いながらも、最善を信じて決断を重ねてきました。
その8ヶ月の葛藤と、実際に選択してきたことを、ひとつの記録としてnoteにまとめています。
今まさに不安の中にいるご家族が、私たちと同じ後悔をしないための道しるべとなれたなら。
そんな想いで書きました。
(無料noteで公開中)
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Instagram(乳がん・夫の闘病・日々の想い)
きゃんばぁば|乳がんサバイバー/家族の闘病サポーター
乳がんを経験し根治。妹の膵がん、夫の食道がんを家族として支えた実体験をもとに、「患者と家族、両方の視点」で発信しています。
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