【第38話】乳がんの「標準治療」とは?迷った私が納得して治療を決めるまで

乳がん体験記

※この記事は、私が2013年にトリプルネガティブ乳がんと診断され、2014年にかけて治療を受けた経験をもとに書いています。乳がんの治療はその後も進歩しており、同じ乳がんでも、がんの性質や進行度、体の状態によって治療内容は異なります。

この記事は、特定の治療をすすめたり、治療を受けない選択をした方を否定したりするものではありません。治療について迷いや不安がある場合は、主治医や医療者に相談し、必要に応じてセカンドオピニオンやがん相談支援センターなども利用しながら、ご自身が納得できる治療を考えてください。

YouTubeの動画を見て思い出した、告知直後の自分

乳がんの治療を終えて長い年月がたった、ある日のことです。

YouTubeを見ていると、乳がんの標準治療を受けなかった経験と、その後の病状について語っている方の動画が目に入りました。

動画を見ただけでは、その方の病状や、治療を選ばなかった理由、当時置かれていた状況までは分かりません。

それでも私は、大きな衝撃を受けました。

そして、2013年に乳がんを告知されたばかりの自分を思い出したのです。

きゃんばぁば
きゃんばぁば

「本当にこの治療でいいの?」
「抗がん剤を受けても大丈夫なの?」

当時の私も、治療への不安でいっぱいでした。

動画を見た現在の女性が、乳がんを告知され治療に迷っていた2013年当時を思い出す4コマ漫画

動画を見ながら、治療への不安でいっぱいだった告知直後の自分を思い出しました。

病気のことを知りたくて、毎日のようにインターネットで乳がんについて調べていました。

だから私は、治療に迷う人の気持ちが、まったく分からないわけではありません。

副作用が怖くて、治療に踏み出せない人。

インターネットで見つけた別の治療法に、希望を感じる人。

そこには、一人ひとり違う事情や思いがあるのだと思います。

私は、治療を受けなかった人を責めたいわけではありません。

ただ、当時の自分を振り返ると、

「もし、信頼できる医師に出会えていなかったら」
「もし、不安の中で見つけた一つの情報だけを信じていたら」

私も違う選択をしていたかもしれない。

そう思ったのです。

そもそも「標準治療」とは?

乳がんになって初めて、「標準治療」という言葉を聞いた方もいると思います。

私も最初は、「標準ということは、普通の治療なのかな」と思っていました。

医療でいう標準治療は、「普通の治療」や「最低限の治療」という意味ではありません。

これまでの研究によって効果や安全性が確かめられ、現在、多くの患者さんにすすめられている治療のことです。

また、「新しい治療」であれば、必ず標準治療より優れているというわけでもありません。

新しい治療は、効果や副作用を調べる試験が行われ、これまでの治療よりよいと認められた場合に、新たな標準治療になります。

研究、効果と安全性の確認、専門家の評価を経て標準治療になる流れを示した図

標準治療は「普通の治療」ではなく、研究によって効果や安全性が確かめられた治療です。

「標準治療=乳がんになった人全員が同じ治療を受ける」ということでもありません。

乳がんでは、がんの広がりや性質、体の状態、本人の希望などを確認しながら、手術、放射線治療、薬物療法などを組み合わせて治療方針が検討されます。

2013年、51歳で乳がんと診断されました

2013年、51歳だった私は、右胸に小さなしこりがあることに気づきました。

私は毎年、乳がん検診を受けていました。

それまで異常を指摘されたこともなかったため、「まさか、私が乳がんになるなんて」最初は信じることができませんでした。

検査が進み、2013年6月に乳がんと診断されても、頭の中は混乱したままでした。

私の乳がんはトリプルネガティブ乳がんで、ステージ2A、グレード3と説明を受けました。

けれど当時の私は、説明を聞くだけで精いっぱいでした。

自分の乳がんがどのような性質なのか。なぜ、その治療が必要なのか。すぐには理解できませんでした。

乳がんの診断内容を聞きながら、説明を理解しきれず戸惑っている51歳の女性

病名や進行度を説明されても、告知直後の私は理解するだけで精いっぱいでした。

それ以上に、治療への恐怖がありました。

「本当にこの治療でいいのだろうか」
「この先生に任せて大丈夫なのだろうか」

自分の命に関わることだからこそ、簡単には決められなかったのです。

最初の病院では、治療を決められませんでした

最初に受診した病院でも、検査結果や治療方針について説明を受けました。

でも、私は、その場で治療を決めることができませんでした。

医師の説明が間違っていると考えたわけではありません。

ただ、告知されたばかりの私は、説明を十分に理解できず、「本当にこの治療でいいのかな」という不安が残っていました。

きゃんばぁば
きゃんばぁば

何が正しいのか分からない。

けれど、自分の命に関わる治療だから、納得して決めたい。

最初の病院で治療を決められず、説明資料を抱えて病院の廊下に座る女性

治療を否定したかったのではなく、自分が納得してから決めたいと思っていました。

そう考えた私は、別の医師の意見も聞いてみることにしました。

セカンドオピニオンでM先生に出会いました

私は、ウィッグを探すために訪れた美容室で、偶然M先生のことを教えてもらいました。

その後、自分でもM先生について調べ、「この先生の意見を聞いてみたい」と思い、セカンドオピニオンを受けることにしました。

M先生からは、「術前抗がん剤でいきましょう」と説明を受けました。

そして最後に、次のように声をかけてもらいました。

医師
医師

「一緒に頑張りましょう」

その言葉を聞いたとき、私は、「この先生に治療をお願いしよう」と、ようやく思うことができました。

美容室でM先生を知り、セカンドオピニオンで「一緒に頑張りましょう」と声をかけられるまでの4コマ漫画

「一緒に頑張りましょう」という言葉が、治療へ進むための大きな支えになりました。

治療法の名前を聞いただけで、決められたわけではありません。

自分の乳がんに対して、どのような治療を考えているのか。

なぜ、手術の前に抗がん剤治療を行うのか。

説明を聞き、自分なりに納得できたことが、治療へ進むための大きな一歩になりました。

私が受けた乳がん治療の流れ

主治医と相談し、私は手術の前に抗がん剤治療を受けることになりました。

  • 2013年〜2014年|術前抗がん剤治療
    パクリタキセルを週1回、合計12回受けたあと、FEC療法を4回受けました。
  • 2014年3月12日|乳房温存手術
    抗がん剤治療を終えたあと、乳房温存手術を受けました。
  • 2014年|放射線治療
    手術後に、放射線治療を25回受けました。

これが、2013年から2014年にかけて、私が受けた乳がん治療です。

パクリタキセル、FEC療法、乳房温存手術、放射線治療という乳がん治療の流れを示した図

私の場合は、術前抗がん剤治療、乳房温存手術、放射線治療の順に進みました。

ただし、これはあくまでも私の場合の治療経過です。私と同じトリプルネガティブ乳がんであっても、がんの大きさや広がり、リンパ節への転移の有無、年齢、体の状態などによって、検討される治療は異なります。乳がんの治療はその後も進歩しているため、現在診断された方に、私とまったく同じ治療が行われるとは限りません。

以前の私は、「乳がんは全身病だから、抗がん剤は大切」という言葉を使っていたことがありました。

けれど、この表現では、「乳がんになったら、全員が抗がん剤治療を受けなければならない」と受け取られてしまうかもしれません。

すべての乳がん患者さんに、抗がん剤治療が必要なわけではありません。

手術の前や後に薬物療法を行うかどうかは、がんの性質や進行度、治療の目的などを踏まえて検討されます。

大切なのは、ほかの人と治療を比べることではなく、「私の乳がんには、なぜこの治療が提案されているのか」を主治医に確認することだと思います。

つらい副作用の中でも治療を続けられた理由

もちろん、抗がん剤治療は楽ではありませんでした。

髪が抜けました。

手足のしびれもありました。

白血球の数値が下がり、治療が延期になったこともあります。

味覚が変わり、食べることがつらい時期もありました。

脱毛、手足のしびれ、治療延期、味覚の変化という抗がん剤治療中の副作用を描いた4コマ漫画

脱毛やしびれ、治療延期、味覚の変化など、治療中にはさまざまなつらさがありました。

きゃんばぁば
きゃんばぁば

「もう嫌だ」と思ったことも、何度もありました。

それでも私は、「何のために、この治療を受けているのか」を自分なりに理解しながら、一つひとつの治療を受けていきました。

つらさがなくなったわけではありません。

それでも、治療の目的を理解していたことが、私にとって治療を続ける力の一つになったのだと思います。

そしてこの頃から、体のつらさとは別に、治療費や仕事、これからの生活のことも、少しずつ頭の中を占めるようになっていきました。

不安なときほど、ネットの強い言葉に心が揺れます

乳がんと告知された頃、私も毎日のようにインターネットで乳がんについて調べていました。

検索すると、本当にたくさんの情報が出てきます。

「抗がん剤は怖い」
「この方法でがんが消えた」
「病院の治療を受けてはいけない」

そんな強い言葉を目にすることもありました。

脱毛、手足のしびれ、治療延期、味覚の変化という抗がん剤治療中の副作用を描いた4コマ漫画

不安なときほど強い言葉に心が揺れます。気になった情報は、一人で判断せず、医療者に確認することも大切です。

告知されたばかりで不安なときは、少しでも怖くない方法を探したくなるものです。

私も、次のように考えたことがありました。

きゃんばぁば
きゃんばぁば

「もっと楽な治療はないのかな」「本当に抗がん剤を受けなければいけないのかな」

今振り返ると、インターネットで見つけた一つの情報だけで、大切な治療を決めなくてよかったと思います。

インターネットや書籍には信頼できる情報がある一方で、効果が科学的に確認されていない治療情報もあります。

気になる治療法を見つけたら、「これは私にも当てはまりますか?」と主治医に聞いてみる。

説明が分からなければ、もう一度確認する。

その場で質問が浮かばなければ、メモに書いて次の診察へ持っていく。

一人で情報の正しさを判断するのではなく、主治医や医療者と一緒に考えていくことも大切だと思います。

判断に迷ったときには、がん相談支援センターなどに相談することもできます。

「この先生で本当に大丈夫?」と思ったとき

治療について説明を受けても、「本当にこの治療でいいのかな」「ほかの治療方法はないのかな」と感じることはあると思います。私もそうでした。

そのようなときに利用できる方法の一つが、セカンドオピニオンです。セカンドオピニオンとは、現在の担当医とは別の医師に、診断や治療についての意見を求めることです。

現在の検査結果や画像などの診療情報をもとに、別の医師から説明を聞きます。

意見を聞いたからといって、すぐに転院を決める必要はありません。

担当医への相談から別の医師の意見を聞き、治療を考えるまでのセカンドオピニオンの流れ

セカンドオピニオンは、すぐに転院を決めるためではなく、別の医師の意見を聞く方法です。

たとえ同じ方針を示されたとしても、違う先生から説明を聞くことで、病気への理解が深まり、納得して治療に進めることがあります。

きゃんばぁば
きゃんばぁば

私にとってのセカンドオピニオンは、「別の治療を探すため」というより、「自分が納得して、この治療に進むため」の大切な時間になりました。

よくある質問(QA)

Q. 標準治療は、乳がんになった人全員が同じ治療を受けるということですか?

いいえ。研究によって効果や安全性が確かめられ、多くの患者さんにすすめられている治療という意味であり、一人ひとりの状態に応じて内容は異なります。


Q. 提案された治療に迷ったときは、何を確認すればいいですか?

「何のために受けるのか」「ほかに選択肢はあるか」など、分からないことをメモに書き、一つずつ主治医に確認していく方法があります。


Q. セカンドオピニオンを受けたら、転院しなければいけませんか?

いいえ。別の医師に意見を聞くための方法であり、転院は必須ではありません。


Q. 治療への不安は、誰に相談できますか?

主治医や医療者のほか、がん相談支援センターなども利用できます。一人で抱え込まないことが大切です。

診察前に、主治医へ聞きたいことをノートに整理している女性の1コマイラスト

診察で聞きたいことは、ノートに書いて持っていくと確認しやすくなります。

治療を終えて12年、標準治療について思うこと

2013年に乳がんと診断され、2013年から2014年にかけて、抗がん剤治療、乳房温存手術、放射線治療を受けました。

治療を終えてから、2026年で約12年になります。

治療後には放射線肺臓炎を経験し、その後も肺の病気と向き合うことになりました。

決して、順調な道のりだったとは言えません。

それでも、長い間経過を見てもらいながら、ここまで歩いてくることができました。

抗がん剤治療や放射線治療、治療後の肺の病気と向き合った日々を振り返りながら、治療を終えて12年後の今を穏やかに見つめる女性のイラスト

治療後も肺の病気と向き合いながら、長い時間を歩いてきました。

「ただ、標準治療を受けたすべての人が、私と同じような経過をたどるわけではありません。」

治療の効果や副作用、その後の経過は、一人ひとり違うからです。

ただ、私自身について言えば、あのとき自分の乳がんについて説明を受け、迷ったときにはセカンドオピニオンを利用し、納得したうえで治療に進めたことは、本当によかったと思っています。

きゃんばぁば
きゃんばぁば

怖くなかったわけではありません。迷わなかったわけでもありません。

それでも、「自分は何のために、この治療を受けるのか」を理解し、自分で納得して一歩を踏み出せた。

それが、当時の私にとって、とても大切なことだったのだと思います。

今、乳がんと告知されて不安なあなたへ

乳がんと告知されたばかりのとき、すべてを一度に理解する必要はないと思います。

私も、すぐには理解できませんでした。

診察室で説明を聞いても、頭に入らないことがありました。

病院を出てから、「あれを聞けばよかった」と思うこともありました。

乳がんを告知され説明資料を手に不安を感じていた2013年の自分を、治療を終えて12年たった現在の女性が振り返るイラスト

告知直後は、すべてを一度に理解できなくても大丈夫。分からないことを一つずつ聞きながら、納得できる治療を考えていけばよいのだと思います。

「標準治療だから、何も聞かずに受けなければならない」ということではありません。

反対に、「怖いから」という気持ちだけで、一人で治療を決めてしまう必要もありません。

きゃんばぁば
きゃんばぁば

自分の病気について少しずつ知り、分からないことは医療者に聞きながら、自分が納得できる治療を一緒に考えていく。

2013年の自分を振り返りながら、今の私はそう思っています。

次回は、治療が始まってから気づいた「お金と保険」のこと

乳がんと告知されたばかりの頃、私の頭の中は、病気と治療のことでいっぱいでした。

けれど、実際に治療が始まると、治療費や仕事、これからの生活についても不安を感じるようになりました。

そして、治療を終えたあとになって、今度は治療中とは違う形で、保険というものと向き合うことになりました。

「今の保障で大丈夫かな」
「がんを経験したあとでも、検討できる保険はあるのかな」

乳がん治療中に領収書や仕事の予定を確認する女性と、治療後に現在の保障や保険資料を見ながら悩む女性を描いたイラスト

治療が始まると、治療費や仕事、これからの生活が気になりました。治療後には、今度は保険を選ぶ難しさと向き合うことになりました。

次回は、乳がん経験後に私が知った、保険を選ぶ難しさについて書いています。

【第39話】がんと診断された後、保険に入るのは難しい?乳がん経験者が知っておきたかったこと

第39話はこちらから↓


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乳がんの経験や、夫の闘病を支えながら感じた日々の想いを発信しています。

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この記事を書いた人

きゃんばぁば|乳がんサバイバー/家族の闘病サポーター

乳がんを経験し、経過観察を経てひとつの区切りを迎えました。

義妹の膵がん、夫の食道がんを家族として支えた実体験をもとに「患者と家族、両方の視点」で発信しています。

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