YouTubeの動画を見て思い出した、告知直後の自分
乳がんの治療を終えて長い年月がたった、ある日のことです。
YouTubeを見ていると、乳がんの標準治療を受けなかった経験と、その後の病状について語っている方の動画が目に入りました。
動画を見ただけでは、その方の病状や、治療を選ばなかった理由、当時置かれていた状況までは分かりません。
それでも私は、大きな衝撃を受けました。
そして、2013年に乳がんを告知されたばかりの自分を思い出したのです。

「本当にこの治療でいいの?」
「抗がん剤を受けても大丈夫なの?」
当時の私も、治療への不安でいっぱいでした。

動画を見ながら、治療への不安でいっぱいだった告知直後の自分を思い出しました。
病気のことを知りたくて、毎日のようにインターネットで乳がんについて調べていました。
だから私は、治療に迷う人の気持ちが、まったく分からないわけではありません。
副作用が怖くて、治療に踏み出せない人。
インターネットで見つけた別の治療法に、希望を感じる人。
そこには、一人ひとり違う事情や思いがあるのだと思います。
私は、治療を受けなかった人を責めたいわけではありません。
ただ、当時の自分を振り返ると、
「もし、信頼できる医師に出会えていなかったら」
「もし、不安の中で見つけた一つの情報だけを信じていたら」
私も違う選択をしていたかもしれない。
そう思ったのです。
そもそも「標準治療」とは?
乳がんになって初めて、「標準治療」という言葉を聞いた方もいると思います。
私も最初は、「標準ということは、普通の治療なのかな」と思っていました。
医療でいう標準治療は、「普通の治療」や「最低限の治療」という意味ではありません。
これまでの研究によって効果や安全性が確かめられ、現在、多くの患者さんにすすめられている治療のことです。
また、「新しい治療」であれば、必ず標準治療より優れているというわけでもありません。
新しい治療は、効果や副作用を調べる試験が行われ、これまでの治療よりよいと認められた場合に、新たな標準治療になります。

標準治療は「普通の治療」ではなく、研究によって効果や安全性が確かめられた治療です。
「標準治療=乳がんになった人全員が同じ治療を受ける」ということでもありません。
乳がんでは、がんの広がりや性質、体の状態、本人の希望などを確認しながら、手術、放射線治療、薬物療法などを組み合わせて治療方針が検討されます。
2013年、51歳で乳がんと診断されました
2013年、51歳だった私は、右胸に小さなしこりがあることに気づきました。
私は毎年、乳がん検診を受けていました。
それまで異常を指摘されたこともなかったため、「まさか、私が乳がんになるなんて」最初は信じることができませんでした。
検査が進み、2013年6月に乳がんと診断されても、頭の中は混乱したままでした。
私の乳がんはトリプルネガティブ乳がんで、ステージ2A、グレード3と説明を受けました。
けれど当時の私は、説明を聞くだけで精いっぱいでした。
自分の乳がんがどのような性質なのか。なぜ、その治療が必要なのか。すぐには理解できませんでした。

病名や進行度を説明されても、告知直後の私は理解するだけで精いっぱいでした。
それ以上に、治療への恐怖がありました。
「本当にこの治療でいいのだろうか」
「この先生に任せて大丈夫なのだろうか」
自分の命に関わることだからこそ、簡単には決められなかったのです。
最初の病院では、治療を決められませんでした
最初に受診した病院でも、検査結果や治療方針について説明を受けました。
でも、私は、その場で治療を決めることができませんでした。
医師の説明が間違っていると考えたわけではありません。
ただ、告知されたばかりの私は、説明を十分に理解できず、「本当にこの治療でいいのかな」という不安が残っていました。

何が正しいのか分からない。
けれど、自分の命に関わる治療だから、納得して決めたい。

治療を否定したかったのではなく、自分が納得してから決めたいと思っていました。
そう考えた私は、別の医師の意見も聞いてみることにしました。
セカンドオピニオンでM先生に出会いました
私は、ウィッグを探すために訪れた美容室で、偶然M先生のことを教えてもらいました。
その後、自分でもM先生について調べ、「この先生の意見を聞いてみたい」と思い、セカンドオピニオンを受けることにしました。
M先生からは、「術前抗がん剤でいきましょう」と説明を受けました。
そして最後に、次のように声をかけてもらいました。

「一緒に頑張りましょう」
その言葉を聞いたとき、私は、「この先生に治療をお願いしよう」と、ようやく思うことができました。

「一緒に頑張りましょう」という言葉が、治療へ進むための大きな支えになりました。
治療法の名前を聞いただけで、決められたわけではありません。
自分の乳がんに対して、どのような治療を考えているのか。
なぜ、手術の前に抗がん剤治療を行うのか。
説明を聞き、自分なりに納得できたことが、治療へ進むための大きな一歩になりました。
私が受けた乳がん治療の流れ
主治医と相談し、私は手術の前に抗がん剤治療を受けることになりました。
- 2013年〜2014年|術前抗がん剤治療
パクリタキセルを週1回、合計12回受けたあと、FEC療法を4回受けました。 - 2014年3月12日|乳房温存手術
抗がん剤治療を終えたあと、乳房温存手術を受けました。 - 2014年|放射線治療
手術後に、放射線治療を25回受けました。
これが、2013年から2014年にかけて、私が受けた乳がん治療です。

私の場合は、術前抗がん剤治療、乳房温存手術、放射線治療の順に進みました。
以前の私は、「乳がんは全身病だから、抗がん剤は大切」という言葉を使っていたことがありました。
けれど、この表現では、「乳がんになったら、全員が抗がん剤治療を受けなければならない」と受け取られてしまうかもしれません。
すべての乳がん患者さんに、抗がん剤治療が必要なわけではありません。
手術の前や後に薬物療法を行うかどうかは、がんの性質や進行度、治療の目的などを踏まえて検討されます。
大切なのは、ほかの人と治療を比べることではなく、「私の乳がんには、なぜこの治療が提案されているのか」を主治医に確認することだと思います。
つらい副作用の中でも治療を続けられた理由
もちろん、抗がん剤治療は楽ではありませんでした。
髪が抜けました。
手足のしびれもありました。
白血球の数値が下がり、治療が延期になったこともあります。
味覚が変わり、食べることがつらい時期もありました。

脱毛やしびれ、治療延期、味覚の変化など、治療中にはさまざまなつらさがありました。

「もう嫌だ」と思ったことも、何度もありました。
それでも私は、「何のために、この治療を受けているのか」を自分なりに理解しながら、一つひとつの治療を受けていきました。
つらさがなくなったわけではありません。
それでも、治療の目的を理解していたことが、私にとって治療を続ける力の一つになったのだと思います。
そしてこの頃から、体のつらさとは別に、治療費や仕事、これからの生活のことも、少しずつ頭の中を占めるようになっていきました。
不安なときほど、ネットの強い言葉に心が揺れます
乳がんと告知された頃、私も毎日のようにインターネットで乳がんについて調べていました。
検索すると、本当にたくさんの情報が出てきます。
「抗がん剤は怖い」
「この方法でがんが消えた」
「病院の治療を受けてはいけない」
そんな強い言葉を目にすることもありました。

不安なときほど強い言葉に心が揺れます。気になった情報は、一人で判断せず、医療者に確認することも大切です。
告知されたばかりで不安なときは、少しでも怖くない方法を探したくなるものです。
私も、次のように考えたことがありました。

「もっと楽な治療はないのかな」「本当に抗がん剤を受けなければいけないのかな」
今振り返ると、インターネットで見つけた一つの情報だけで、大切な治療を決めなくてよかったと思います。
インターネットや書籍には信頼できる情報がある一方で、効果が科学的に確認されていない治療情報もあります。
気になる治療法を見つけたら、「これは私にも当てはまりますか?」と主治医に聞いてみる。
説明が分からなければ、もう一度確認する。
その場で質問が浮かばなければ、メモに書いて次の診察へ持っていく。
一人で情報の正しさを判断するのではなく、主治医や医療者と一緒に考えていくことも大切だと思います。
判断に迷ったときには、がん相談支援センターなどに相談することもできます。
「この先生で本当に大丈夫?」と思ったとき
治療について説明を受けても、「本当にこの治療でいいのかな」「ほかの治療方法はないのかな」と感じることはあると思います。私もそうでした。
そのようなときに利用できる方法の一つが、セカンドオピニオンです。セカンドオピニオンとは、現在の担当医とは別の医師に、診断や治療についての意見を求めることです。
現在の検査結果や画像などの診療情報をもとに、別の医師から説明を聞きます。
意見を聞いたからといって、すぐに転院を決める必要はありません。

セカンドオピニオンは、すぐに転院を決めるためではなく、別の医師の意見を聞く方法です。
たとえ同じ方針を示されたとしても、違う先生から説明を聞くことで、病気への理解が深まり、納得して治療に進めることがあります。

私にとってのセカンドオピニオンは、「別の治療を探すため」というより、「自分が納得して、この治療に進むため」の大切な時間になりました。
よくある質問(QA)
Q. 標準治療は、乳がんになった人全員が同じ治療を受けるということですか?
いいえ。研究によって効果や安全性が確かめられ、多くの患者さんにすすめられている治療という意味であり、一人ひとりの状態に応じて内容は異なります。
Q. 提案された治療に迷ったときは、何を確認すればいいですか?
「何のために受けるのか」「ほかに選択肢はあるか」など、分からないことをメモに書き、一つずつ主治医に確認していく方法があります。
Q. セカンドオピニオンを受けたら、転院しなければいけませんか?
いいえ。別の医師に意見を聞くための方法であり、転院は必須ではありません。
Q. 治療への不安は、誰に相談できますか?
主治医や医療者のほか、がん相談支援センターなども利用できます。一人で抱え込まないことが大切です。

診察で聞きたいことは、ノートに書いて持っていくと確認しやすくなります。
治療を終えて12年、標準治療について思うこと
2013年に乳がんと診断され、2013年から2014年にかけて、抗がん剤治療、乳房温存手術、放射線治療を受けました。
治療を終えてから、2026年で約12年になります。
治療後には放射線肺臓炎を経験し、その後も肺の病気と向き合うことになりました。
決して、順調な道のりだったとは言えません。
それでも、長い間経過を見てもらいながら、ここまで歩いてくることができました。

治療後も肺の病気と向き合いながら、長い時間を歩いてきました。
「ただ、標準治療を受けたすべての人が、私と同じような経過をたどるわけではありません。」
治療の効果や副作用、その後の経過は、一人ひとり違うからです。
ただ、私自身について言えば、あのとき自分の乳がんについて説明を受け、迷ったときにはセカンドオピニオンを利用し、納得したうえで治療に進めたことは、本当によかったと思っています。

怖くなかったわけではありません。迷わなかったわけでもありません。
それでも、「自分は何のために、この治療を受けるのか」を理解し、自分で納得して一歩を踏み出せた。
それが、当時の私にとって、とても大切なことだったのだと思います。
今、乳がんと告知されて不安なあなたへ
乳がんと告知されたばかりのとき、すべてを一度に理解する必要はないと思います。
私も、すぐには理解できませんでした。
診察室で説明を聞いても、頭に入らないことがありました。
病院を出てから、「あれを聞けばよかった」と思うこともありました。

告知直後は、すべてを一度に理解できなくても大丈夫。分からないことを一つずつ聞きながら、納得できる治療を考えていけばよいのだと思います。
「標準治療だから、何も聞かずに受けなければならない」ということではありません。
反対に、「怖いから」という気持ちだけで、一人で治療を決めてしまう必要もありません。

自分の病気について少しずつ知り、分からないことは医療者に聞きながら、自分が納得できる治療を一緒に考えていく。
次回は、治療が始まってから気づいた「お金と保険」のこと
乳がんと告知されたばかりの頃、私の頭の中は、病気と治療のことでいっぱいでした。
けれど、実際に治療が始まると、治療費や仕事、これからの生活についても不安を感じるようになりました。
そして、治療を終えたあとになって、今度は治療中とは違う形で、保険というものと向き合うことになりました。
「今の保障で大丈夫かな」
「がんを経験したあとでも、検討できる保険はあるのかな」

治療が始まると、治療費や仕事、これからの生活が気になりました。治療後には、今度は保険を選ぶ難しさと向き合うことになりました。
次回は、乳がん経験後に私が知った、保険を選ぶ難しさについて書いています。
【第39話】がんと診断された後、保険に入るのは難しい?乳がん経験者が知っておきたかったこと
第39話はこちらから↓
乳がんの経験や、夫の闘病を支えながら感じた日々の想いを発信しています。
この記事を書いた人
きゃんばぁば|乳がんサバイバー/家族の闘病サポーター
乳がんを経験し、経過観察を経てひとつの区切りを迎えました。
義妹の膵がん、夫の食道がんを家族として支えた実体験をもとに「患者と家族、両方の視点」で発信しています。
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