孤独と不安を抱えて、重い足取りで向かった入院生活
「入院」と聞くと、つらくて、寂しくて、暗い孤独な時間を想像する方が多いかもしれません。

私も最初はそうでした。
乳がんと告知されてから始まった、抗がん剤治療や手術のために何度も病院へ戻る日々。
家族と離れ、毎回重い気持ちで病棟のドアをくぐっていました。

心の中では何度も深呼吸していました。
不安と孤独感を抱えていた当時の私は、入院が決まるたびに

「いつもの部屋は空いていますか?」
と病棟に確認していました。
少しでも見慣れた場所に、安心感を求めていたのだと思います。
髪がなくても驚かれない。4人部屋が「私の居場所」になった理由
私が「いつもの部屋」と呼んでいたのは、個室ではなく4人部屋でした。
大部屋と聞くと、周りに気を使いそうで落ち着かないイメージがあるかもしれません。
けれど私にとってその病室は、髪がない自分のままでも、少しだけ肩の力を抜いていられる場所でした。
抗がん剤の影響で髪が抜けていても、ケア帽子をかぶっていても、ウィッグを外していても、そこでは誰も驚きません。ジロジロ見られることもありません。

誰かに説明しなくても、受け止めてもらえる空間がありました。
「髪がなくなることも、今は治療を頑張っているしるし」
そんな空気が自然と流れていました。
外の世界では「可哀想な目で見られているかも」と気になってしまうことも、ここではそのままの自分でいられる。
無理に元気に見せなくてもいい、少しだけ肩の力を抜ける場所。
その4人部屋は「私の居場所」になったのです。

隠さなくてもいいと思えた瞬間、心が少し軽くなりました。
言葉にしなくても「わかるよ」。がん友との何気ない会話に救われた日々
安心感を作ってくれていたのは、カーテンの向こうにいる「がん友」たちでした。
家族や友人がそばで支えてくれることは、本当にありがたいことでした。

でも、実際に同じ治療を受けている人にしか伝わらない気持ちも確かにありました。
髪が抜けていくときの戸惑い、副作用がいつまで続くのかという不安。
そんな気持ちを細かく説明しなくても、「わかるよ」と一言、うなずいてくれる人がいる。

同じ経験をしている人の一言は、何より深く届くことがありました。
それだけで、胸の奥のつかえがスーッと軽くなっていきました。
「今日は少し食べられた?」
「検査結果を待つ時間って長く感じるよね」
カーテンを開けてそんな何気ない言葉を交わせるだけで、一人で抱えていた不安を少し下ろせた気がしました。
治療中の病室なのに、たわいもない話で笑い声が響く時間もある。
そんな時間を重ねるうちに、ひとりではないと思えるようになりました。
「がんと共存して生きていくのよ」焦る私を変えた、先輩患者さんの一言
当時の私は、早く治療を終わらせて元の生活に戻ることばかりを考えていました。
見えないゴールに焦り、息切れしそうになっていたのです。
そんなある日、同じ病室の先輩患者さんたちが、ご自身の経験を話してくださいました。

何気ない会話が、不安でいっぱいの時間を少しやわらげてくれました。
「もう20年も抗がん剤治療を受けているのよ」
「再発で何回も入院しているけれど、こうして今も頑張っているよ」
その方たちの姿は、当時の私にとって、とても大きな励みになりました。

そして、今も忘れられない言葉があります。
「がんと共存して生きていくのよ」
完治を急ぐのではなく、病気と向き合いながら、その日その日を大切に生きていく。
その言葉は、焦ってばかりいた私の心を、少しだけ立ち止まらせてくれました。
これからの生き方を見つめ直す、大切な気づきになったのです。
いつもそこにある安心感。この居場所を陰で守ってくれた医療チーム
この温かい居場所は、がん友たちだけで作られていたわけではありません。
その安心感を支えてくださっていたのは、医療チームの皆さんでもありました。
体がつらくて、返事をするのもやっとだった日。
看護師さんがベッドのそばで「無理しないでね」と優しく声をかけてくださいました。

治療の場には、体だけでなく心を見てくれる人たちがいました。
その何気ない一言に、私は「頑張らなくてもいいんだ」と、少し気持ちが楽になりました。
病気だけを見るのではなく、一人ひとりの患者に真摯に向き合ってくださる。
先生や看護師さんたちがそばにいてくれたからこそ、私たちはあの4人部屋で、少し肩の力を抜いて過ごせていたのだと思います。
「一人じゃない」と思えたから。心を取り戻した私が向かった先

がんになったことは、本当につらく、孤独でした。
けれど、入院生活の中で出会った「がん友」の優しさ、医療チームの温かさ、そして家で待っていてくれる家族の存在。
たくさんの人に支えられていると気づいたとき、孤独だと思っていた気持ちは、少しずつ「私はひとりじゃない」という安心感に変わっていきました。
病気への不安で泣いていた私にも、また家族と笑える時間が来るのかもしれない。そんな希望が戻ってきました。

支えられていると気づいたとき、次へ進む力が少し戻ってきました。
こうして入院生活と治療のひとつの山を乗り越え、心が少しずつ戻ってきた私は、ある場所へ向けて一歩を踏み出します。
それは、家族と一緒に出かけた「三重県へのご褒美旅行」です。
次回は、「また旅行に行ける日なんて来るのかな…」と泣いていた私が、家族と過ごした最高の時間についてお届けします。
ぜひ、次の記事も読んでいただけたら嬉しいです。
第18話はこちらから↓
一人じゃない。そう思えたから、私はまた次の一歩を踏み出すことができました。
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