【第18話】抗がん剤後のごほうび旅|「がんが見えなくなっています」と言われた喜びと、手術前に残る静かな不安

乳がん体験記

※この記事は、私自身のトリプルネガティブ乳がん治療中の体験をもとに書いています。

治療内容、検査結果、副作用、体力の回復には個人差があります。

抗がん剤治療後の旅行や外出については、血液検査の結果や体調、感染症への注意が必要な場合もありますので、必ず主治医や医療者に相談してください。

告知から約10か月、私は抗がん剤治療と副作用に向き合う日々を過ごしてきました。

味覚が変わって食べる楽しみを失い、白血球の数値を気にして生ものを我慢し、外出といえば病院へ向かうことばかり。

この三重旅行は、そんな過酷な日々を乗り越え、当時の体調を見ながら無理のない範囲で出かけた、あくまで私自身の当時の体験の記録です。

告知から10か月。「がんが見えなくなっています」の言葉と母からのプレゼント

約6か月にわたる抗がん剤治療を終えたあと、検査結果を聞いた診察室で、主治医からこう告げられました。

医師
医師

「がんが見えなくなっています」

その言葉を聞いた瞬間、体の力がふっと抜けました。

診察室で主治医から「がんが見えなくなっています」と告げられ、安堵する女性のイラスト

長い治療のあとに届いた、心がほどけるような言葉。

もちろん、これで治療がすべて終わったわけではありません。

私にはこのあと、乳房温存手術と放射線治療が控えていました。

それでも、画像上ではがんが見えなくなったと聞けたことは、苦しかった治療を乗り越えてきた私にとって、大きな希望でした。

そんな手術前の時期に、母が私に言ってくれたのです。

「手術の前に、気分転換に伊勢神宮へ行こうか?」

自宅のリビングで、母から伊勢神宮への旅行を提案され、驚きながらも表情がやわらぐ50代女性のイラスト

母の何気ないひと言が、治療の日々に明るい予定をくれました。

それは、ただの旅行の誘いではありませんでした。

治療ばかりの日々の中に、久しぶりに差し込んだ光のような時間でした。

病気を少し忘れられた、母と娘との三重旅行

行き先は三重県に即決しました。

せっかくなら海が見える宿がいい。
温泉にも入りたい。
美味しい料理も食べたい。

そんな欲張りな希望を詰め込んで、宿泊先は鳥羽にある「The Earth(ジ・アース)」を選びました。

母と娘と私。

たった3人の旅なのに、私は楽しみすぎてパンフレットまで作ってしまいました。

治療後の女性が母と娘との三重旅行のパンフレットを作っているイラスト

予定を考える時間そのものが、心を少し元気にしてくれました。

病気になってからは、検査や治療のことばかり考えていましたが、旅行の計画を立てている時間だけは、病気から少し離れることができたのです。

きゃんばぁば
きゃんばぁば

「旅行の計画を立てることって、こんなに楽しかったんだ」

治療中は忘れていたそんな気持ちが、少しずつ戻ってきました。

病院へ向かう電車から近鉄特急へ|少しずつほどけていく心

旅行当日。

近鉄特急に乗り込んだ瞬間から、私はワクワクしていました。

母と娘と一緒に特急電車に乗り込み、三重旅行へ向かう女性のイラスト

この日の電車は、病院ではなく楽しみへ向かう電車でした。

治療中は、病院へ向かう電車に乗ることが多く、外出といえば通院のイメージが強くなっていました。でもこの日は違います。

車内では、母と娘とたくさん話しました。

くだらないことでも笑えて、何気ない会話がとても楽しく感じました。

きゃんばぁば
きゃんばぁば

「こんなに心から笑ったのは、いつぶりだろう」

そう思うほど、久しぶりに心が軽くなっていました。

伊勢神宮で手を合わせて。ここまで来られたことへの感謝

最初の目的地は、伊勢神宮でした。

駅から乗ったタクシーの運転手さんがとても親切な方で、伊勢神宮に祀られている神様のことや、神宮にまつわるお話をたくさん教えてくださいました。

鳥居をくぐる頃には、ただ観光に来たというよりも、「きちんとお参りしよう」という気持ちになっていました。

静かで、厳かで、背筋が自然と伸びるような空間。

私は手を合わせて、心の中でこう伝えました。

きゃんばぁば
きゃんばぁば

「ここまで来られました。ありがとうございました」

よく晴れた日の伊勢神宮の鳥居の写真

願いごとよりも先に、ここまで来られたことへの感謝がこみ上げました。

がんが見つかってからの10か月。

怖かった日も、泣いた日もありました。

それでも私は、ここまで来ることができました。

伊勢神宮で手を合わせた時間は、願いごとをするというより、ただ純粋に感謝を伝える時間だったように思います。

海と温泉に癒される宿「The Earth」

宿泊先の「The Earth」は、鳥羽駅から少し高台にある素敵なお宿でした。

部屋に入ると、目の前には広い海。

その景色を見た瞬間、思わず息をのみました。

TheEarthのテラスから見た海と露天風呂の写真

目の前に広がる海が、張りつめていた心をゆっくりほどいてくれました。

私たちが泊まった部屋には露天風呂もついていて、母も娘も何度も温泉に入りながら、「気持ちいいね」と笑い合っていました。

治療中は体の調子に合わせて過ごすことが多く、何をするにも少し構えていました。

でも、ただ海を眺め、温泉に入るだけで、張り詰めていた心と体がゆっくりとほどけていくようでした。

10か月ぶりに食べたお刺身|また美味しいと思える日が来た喜び

夕食は、新鮮な海鮮料理のコースでした。

実は私は、抗がん剤治療中、主治医から生ものを控えるように言われていました。

白血球の数値を気にしながら過ごしていたため、大好きなお刺身もずっと我慢していたのです。

だから、10か月ぶりにお刺身を口にした瞬間、胸がいっぱいになりました。

きゃんばぁば
きゃんばぁば

「美味しい……!」

思わず涙が出そうになりました。

抗がん剤治療後の旅行で、10か月ぶりに食べたお刺身と海鮮料理の写真

久しぶりに味わえた「美味しい」は、忘れられない一口になりました。

それは、ただのお刺身ではありませんでした。

味覚障害で何を食べても美味しく感じにくかった時期。
吐き気で思うように食べられなかった日。
白血球の数値を気にして、生ものを我慢していた日々。

そのひとつひとつを乗り越えて、ようやく口にできた一口でした。

「また美味しく食べられる日が来た」

そう感じられた、特別な味だったのです。

3人で美味しい料理を食べながら、

「頑張ったね」
「ここまで来たね」

そんな言葉を交わしました。

これはあくまで当時の私の体験ですが、体調を見ながら、久しぶりに少しだけワインも楽しみました。

ほろ酔い気分になりながら、

きゃんばぁば
きゃんばぁば

「幸せだなあ」

としみじみ感じました。

広い海を眺めていると、ずっと抱えていた悩みが少しだけ小さく見えました。

この日のことは、一生忘れないと思います。

治療中のあなたへ|小さな楽しみが、心を支える力になる

今、抗がん剤治療の途中にいる方。
これから手術を控えている方。

もしかしたら、今は「旅行に行く」なんて遠い話に感じるかもしれません。

私もそうでした。

治療中は、目の前の1日を過ごすだけで精一杯でした。

治療中の女性が小さな楽しみを見つけて心を支えようとする4コマ漫画

大きな予定でなくても、心の片隅に楽しみを置くことはできるのかもしれません。

もちろん、無理に前向きになる必要はありません。

つらい時は、つらいと言っていい。
休みたい時は、休んでいい。
泣きたい日は、泣いていい。

そのうえで、もし心のどこかに小さな楽しみを置けるなら、それは治療中の自分を支えてくれる力になるかもしれません。

私にとって、この三重旅行は間違いなくそういう時間でした。

家族へ|そばにいてくれて、本当にありがとう

旅行は、3度楽しめると感じました。

計画を立てる楽しみ。
旅をしている時間の喜び。
そして、あとから思い出を振り返る楽しさ。

旅行写真を見つめながら、母と娘への感謝を静かにかみしめている女性のイラスト

楽しかった旅の思い出が、そばにいてくれた家族への感謝をあらためて教えてくれました。

病気になる前は、当たり前のように思っていたことでした。

でも、治療を経験したあとでは、そのひとつひとつが本当にありがたく感じました。

私にこの旅をプレゼントしてくれた母。
そして、一緒に笑い合ってくれた娘。

そばにいてくれて、本当にありがとう。

旅の余韻と、手術前に残る静かな不安

この旅があったから、私は次の治療へ向かう力をもらえました。

画像上ではがんが見えなくなったと聞いても、治療はまだ終わりではありません。

きゃんばぁば
きゃんばぁば

次に待っていたのは、乳房温存手術でした。

楽しい時間を過ごし、家族と過ごす日常の幸せを強く実感したからこそ、うれしい検査結果や旅の温かい余韻を胸に抱えながらも、心の中には「手術への不安」が静かに現実味を帯びて残っていました。

次回・第19話では、いよいよ乳がんの手術を受けた日のことを書いています。

「温存か全摘か」で悩み抜いた選択についても、お話しします。

第19話はこちらから↓


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この記事を書いた人

きゃんばぁば|乳がんサバイバー/家族の闘病サポーター

乳がんを経験し、経過観察を経てひとつの区切りを迎えました。

その後、妹の膵がん、夫の食道がんを家族として支えてきた経験をもとに、患者と家族の視点で記事を書いています。

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