眠る夫に安堵しつつも、説明室での話しに募る不安
手術が始まってからおよそ3時間が経った頃、「患者家族の方、手術室の前までお越しください」」と院内放送で呼ばれ、心臓が止まりそうなほど不安になりました。
急いで手術の方へ向かうと、そこには眠っている夫の姿がありました。すやすやと穏やかな表情をしており

「よく頑張ったね」と声をかけたくなるような気持ちでいっぱいになりました。

手術後、ひとめだけでも夫と会えて良かったです、
その直後、主治医から

「この後、説明室で手術についてお話をしますので、もうしばらくお待ちください。」
と声をかけられ、再び不安な気持ちに包まれました。
この日は長男も一緒に来てくれていたため、説明室では私と一緒に主治医の話を聞くことになりました。
家族がそばにいてくれることの、心強さを改めて感じる瞬間でもありました。
切除できなかった2センチの「がん」、主治医から告げられた手術の結果と希望
呼び出されて説明室に入ると、すでに主治医が待っておられ説明が始まりました。
「大動脈以外の部分については、問題なく切除できました。」と告げられ、まずは少し安心しました。
続けて

「気管と大動脈と食道が交差する部分にがんがあり、大動脈と癒着していたためその部分だけは切除できず、約2センチのがんを残さざるお得ませんでした。」
と言われ言葉を失いました。
また、目にみえるリンパの転移は1ヶ所のみで、抗がん剤がよく効いていたため、かなり小さくなっていたとのこと。
反回神経を麻痺させていた「がん」も切除できたため、声のかれも回復の見込みがあると聞き、少し希望が見えました。
そして、体への負担が少ない手術、胸腔鏡と腹腔鏡による手術が無事に終わったと聞き、ほっとしました。

がんは、手術で取り切れると信じていた分、現実を知った時の落ち込みはとても大きかったです。
根治は難しくても共存を、主治医が語った治療の希望
私は思い切って

「今後の治療はどうなっていくのでしょうか?」
と主治医に尋ねました。

「正直、はっきりとは申し上げられません。もし治療をしなければ半年ほどかもしれません。ただし、治療を続けていけば、がんを抑えて共存していける可能性はあると思います。」
続けて…

「治すことを目指した放射線治療を行います。これからの治療が効くかどうかが鍵です。」
と説明され、わずかながら希望が見えました。
しかし同時に「他に転移が見つかれば状況は厳しくなります。」との言葉に胸が締め付けられました。

メモを取ろうとしましたが、内容が重くて手が動きませんでした。
私は

「根治が難しいのであれば、せめて共存できるようにしてください。」
とお願いしました。
それに対して、主治医は

「抗がん剤の効きが良かったので、化学放射線治療ですすめていきましょう」
と答えてくださり、少し気持ちが楽になりました。
息子の存在に救われて、夫の治療に冷静に向き合えた私の想い
今回、冷静に話を聞くことができたのは、長男が一緒に行ってくれたおかげです。もし一人だったら、感情に押しつぶされてしまっていたかもしれません。

息子の存在には心から感謝しました。
主治医の話を聞く中で、改めて食道がんの厳しさを実感しました。
食道は、胃や腸のように膜で覆われていないため、周囲の臓器へ転移しやい特性があります。
そのため、たとえステージ3でも長期生存は50%程度と、非常に厳しいがんだということを、以前から調べて知っていました。
夫の場合、がんが大動脈の近くという特に厳しい位置にあってことを思うと、どうしても悔しさが込み上げてきます。
それでも

「明日、ICUでご主人に会えますよ」
と主治医から伝えられたときには、少しだけ安心することができました。
その夜は、息子と母と三人で食卓を囲むことができました。
お惣菜を買って、心配してくれていた母の家に立ち寄り、顔を見せることがができたのも良かったです。
わずかな時間でしたが、三人で静かに励まし合い、少しだけ心が安まるひとときでした。

緊張の1日を終えて、少しだけ心がほくれたひととき。
本当に、息子がいてくれて本当によかった。
私一人では、とても冷静に受け止めることができなかったと、心の底から感謝した夜でした。

次は夫の術後入院中のお話しです。
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乳がんの経験や、夫の闘病を支えながら感じた日々の想いを発信しています。
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note有料シリーズ
👉 第1話 夫が食道がんと告げられて〜ステージ1を信じてしまった私の後悔
👉 第2話 夫の食道がんと向き合って〜「どう生きたいか」を初めて語り合った夜
👉 第3話 治療方針が変わった日〜病院の中で見えた「見えない壁」
※それぞれ単体でも読めますが、順番に読むと「夫婦で病と向き合う物語」としてつながります。
きゃんばぁば|乳がんサバイバー/家族の闘病サポーター
乳がんを経験し完治。妹の膵がんや夫の食道がんを家族として支えた実体験をもとに、
「患者と家族の視点」で記事を書いています。
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