【第18話】抗がん剤治療後のごほうび旅|FEC後「がんが見えなくなっています」と言われ、家族で伊勢神宮へ

乳がん体験記
※この記事は、私自身のトリプルネガティブ乳がん治療中の体験をもとに書いています。
治療内容、検査結果、副作用、体力の回復には個人差があります。
抗がん剤治療後の旅行や外出については、血液検査の結果や体調、感染症への注意が必要な場合もありますので、必ず主治医や医療者に相談してください。

2013年、私はトリプルネガティブ乳がんと告知され、術前抗がん剤治療を受けました。

パクリタキセル、そしてFEC療法。

約6か月にわたる抗がん剤治療を終えたあと、検査結果を聞いた診察室で、主治医からこう告げられました。

「がんが見えなくなっています」

その言葉を聞いた瞬間、体の力がふっと抜けました。

もちろん、これで治療がすべて終わったわけではありません。

私にはこのあと、乳房温存手術と放射線治療が控えていました。

それでも、画像上がんが見えなくなったと聞けたことは、苦しかった抗がん剤治療を乗り越えてきた私にとって、大きな希望でした。

そんな手術前の時期に、母が私に言ってくれたのです。

「手術の前に、気分転換に伊勢神宮へ行こうか?」

それは、抗がん剤治療を頑張った私への、母からのごほうび旅でした。

母からのプレゼント|「伊勢神宮へ行こう」の言葉がくれた楽しみ

乳がんと告知されたとき、主治医からは抗がん剤治療について説明を受けました。その中で、がんが画像上見えなくなる可能性についても聞いていました。

医師
医師

「がんが消える確率は38%です」

(※確率や治療効果は当時の私の場合であり、サブタイプや個人差があります)

そう言われた日から、約10か月。

その間、私は目の前の治療に向き合うことで精一杯でした。

副作用で体がつらい日。
髪が抜けていく不安。

味覚が変わって、食べることが楽しめなくなった日。
白血球の数値を気にしながら過ごした日々。

「いつかまた、元気になって旅行に行ける日が来るのかな」

そんなことを思いながらも、当時の私は、先のことを明るく想像する余裕があまりありませんでした。

母から「伊勢神宮へ行こう」と言われたとき、本当にうれしかったのです。

それは、ただの旅行の誘いではありませんでした。

治療ばかりの日々の中に、久しぶりに差し込んだ光のような時間でした。

きゃんばぁば
きゃんばぁば

「病気のことを少し忘れて、楽しんでもいいんだ」

そう思えたことが、何よりうれしかったのを覚えています。

楽しみすぎてパンフレットまで作った、手術前の三重旅行

旅行が決まってからは、宿泊先を探す時間もワクワクしました。

病気になってからは、検査、治療、通院、体調管理。考えることの多くが、乳がんに関することばかりでした。

でもこの時だけは違いました。

「どこに泊まろう」
「海が見える宿がいいな」

「温泉にも入りたいな」
「久しぶりに美味しいものも食べたいな」

そんなふうに、旅行のことを考えている時間だけは、病気から少し離れられました。

たった3人の旅なのに、私はパンフレットまで作ってしまいました。

母と娘と私。3人だけの小さな旅行です。でも、私にとっては大きな意味のある旅でした。

10か月前の私には、こんな日が来るなんて想像もできませんでした。

「旅行の計画を立てることって、こんなに楽しかったんだ」 治療中は忘れていた、そんな気持ちが少しずつ戻ってきました。


行き先は三重県へ|海が見える宿、温泉、美味しい料理を求めて

伊勢神宮に行くことは決まっていたので、行き先は三重県に即決しました。

せっかくなら、海が見える宿がいい。温泉にも入りたい。美味しい料理も食べたい。

そんな欲張りな希望を詰め込んで選んだ宿が、鳥羽にある「The Earth(ジ・アース)」でした。

本当は、近鉄特急しまかぜにも乗ってみたかったのですが、時間が合わず断念。それでも、久しぶりの旅行というだけで十分でした。

日程は3月初旬。1泊2日の三重旅行です。

ちょうど娘の国家試験も終わり、結果待ちのタイミングでした。

私の抗がん剤治療も終わり、手術まで少し時間がありました。母と娘と私、3人の予定も合いました。

すべての条件がそろい、ようやく「楽しむ準備」ができたのです。

きゃんばぁば
きゃんばぁば

「やっと、治療以外のことを楽しめる」

その気持ちだけで、胸がいっぱいになりました。

久しぶりの旅行へ|近鉄特急の中でたくさん笑った時間

旅行当日。近鉄特急に乗り込んだ瞬間から、私はワクワクしていました。

治療中は、病院へ向かう電車に乗ることが多く、外出といえば通院のイメージが強くなっていました。でもこの日は違います。

行き先は病院ではなく、伊勢神宮。そして海の見える宿。

車内では、母と娘とたくさん話しました。くだらないことでも笑えて、何気ない会話がとても楽しく感じました。

「こんなに心から笑ったのは、いつぶりだろう」

そう思うほど、久しぶりに心が軽くなっていました。

抗がん剤治療中は、体だけでなく心もずっと緊張していたのだと思います。

手術はどうなるのだろう。
体力は戻っていくのだろうか。
この先の治療を、また乗り越えられるのだろうか。

そんな不安が、いつも頭のどこかにありました。

でもこの旅では、ほんの少しだけ、その不安を横に置くことができました。

最初の目的地は伊勢神宮|タクシーの運転手さんとの出会い

最初の目的地は、伊勢神宮でした。

駅からタクシーで向かったのですが、その運転手さんがとても親切な方でした。

伊勢神宮に祀られている神様のこと、参拝のこと、神宮にまつわるお話。

車内でいろいろと教えてくださり、その話がとても興味深かったのです。

神宮に着く頃には、ただ観光に来たというよりも、「きちんとお参りしよう」という気持ちになっていました。

鳥居をくぐると、空気が少し変わったように感じました。

静かで、厳かで、背筋が自然と伸びるような空間。

私は手を合わせて、心の中でこう伝えました。

「ここまで来られました。ありがとうございました」

がんが見つかってからの10か月。怖かった日も、泣いた日も、眠れなかった日もありました。それでも私は、ここまで来ることができました。

伊勢神宮で手を合わせた時間は、願いごとをするというより、感謝を伝える時間だったように思います。

よく晴れた日の伊勢神宮の鳥居の写真

静かな空気の中で、ここまで来られたことに感謝しました。

The Earthで過ごした、海と温泉に癒される時間

宿泊先のThe Earth(ジ・アース)は、鳥羽駅から少し高台にある素敵なお宿でした。

部屋に入ると、目の前に広がる海。その景色を見た瞬間、思わず息をのみました。

私たちが泊まった部屋には、露天風呂もついていました。お湯はとても気持ちよくて、肌がつるつるになるような感覚でした。

母も娘も、何度も温泉に入りながら、「気持ちいいね」と笑い合っていました。

料理も美味しく、スタッフさんの距離感も心地よくて、無理なくゆっくり過ごすことができました。

治療中は、体の調子に合わせて過ごすことが多く、何をするにも少し構えていました。

でもこの宿では、ただ海を眺めて、温泉に入って、食事を楽しむ。それだけで、心と体が少しずつほどけていくようでした。

「この宿を選んで、本当によかった」 心からそう思いました。

TheEarthのテラスから見た海と温泉の写真

海を眺めながら、抗がん剤で疲れた体をゆっくり休めました。

10か月ぶりのお刺身|「また美味しいと思える日」が来た

夕食は、新鮮な海鮮料理のコースでした。 実は私は、抗がん剤治療中、主治医から生ものを控えるように言われていました。

白血球の数値や体調を気にしながら過ごしていたため、大好きなお刺身もずっと我慢していたのです。

だから、久しぶりにお刺身を口にした瞬間、胸がいっぱいになりました。

きゃんばぁば
きゃんばぁば

「美味しい……!」

思わず涙が出そうになりました。

それは、 ただのお刺身ではありませんでした。

治療を頑張ってきた私にとって、そのひと口は、「また美味しく食べられる日が来た」と感じられる特別な味だったのです。

味覚障害で、何を食べても美味しく感じにくかった時期。
吐き気で、思うように食べられなかった日。
白血球の数値を気にして、生ものを我慢していた日。

そのひとつひとつが、一気に思い出されました。

そして、目の前には母と娘がいました。

3人で美味しい料理を食べながら、たくさん話しました。

「頑張ったね」
「ここまで来たね」

そんな言葉を交わしながら、久しぶりに少しだけワインも楽しみました。

ほろ酔い気分になりながら、「幸せだなあ」としみじみ感じました。

テラスから見える広い海は本当に美しくて、ずっと抱えていた悩みが少しだけ小さく見えました。

この日のことは、「一生忘れないと思います」

この旅は、少しずつ日常を取り戻す時間でした

がんの告知を受けてから、抗がん剤治療を終えるまでの約10か月。

私はずっと、治療と副作用に向き合いながら過ごしてきました。

その先にあったのは、母と娘と一緒に心から笑い合える時間でした。

伊勢神宮の静かな空気。
海を眺めながら入った露天風呂。
久しぶりに食べたお刺身の美味しさ。
母と娘の笑い声。
何気ない会話。

どれも、治療を乗り越えたあとだったからこそ、深く心に残ったものばかりです。

この旅は、私にとって単なる旅行ではありませんでした。

病気のことばかり考えていた毎日から、少しだけ離れられた時間。

「また、こんなふうに笑えるんだ」と思えた時間。

手術へ向かう前の心を、そっと整えてくれた時間でした。

病気になる前は、旅行に行くことも、美味しいものを食べることも、家族と笑うことも、当たり前のように思っていました。

でも治療を経験したあとでは、そのひとつひとつが本当にありがたく感じました。


治療中のあなたへ|楽しめる時間は、少しずつ戻ってくる

今、抗がん剤治療の途中にいる方。
これから手術を控えている方。
副作用で心も体も疲れている方。

もしかしたら、今は「旅行に行く」なんて遠い話に感じるかもしれません。

私もそうでした。

治療中は、目の前の1日を過ごすだけで精一杯でした。

でも、ひとつずつ乗り越えていくと、気がつけば、少しずつ楽しめる時間が戻ってくることがあります。

もちろん、無理に前向きになる必要はありません。

つらい時は、つらいと言っていい。
休みたい時は、休んでいい。
泣きたい日は、泣いていい。

そのうえで、もし心のどこかに小さな楽しみを置けるなら、それは治療中の自分を支えてくれる力になるかもしれません。

私にとって、この三重旅行はそういう時間でした。


家族へ|そばにいてくれて、本当にありがとう

この旅があったから、私は次の治療へ向かう力をもらえました。

楽しい時間を過ごせたからこそ、

「手術も頑張ろう」

と思えたのです。

旅行は、3度楽しめると感じました。

計画を立てる楽しみ。
旅をしている時間の喜び。
そして、あとから思い出を振り返る楽しさ。

私にとって三重県への家族旅行は、治療後のごほうびであり、手術へ向かう前の心の準備でもありました。

画像上、がんが見えなくなったと聞いても、治療はまだ終わりではありませんでした。

次に待っていたのは、乳房温存手術です。

うれしい検査結果を胸に抱えながらも、手術への不安は静かに残っていました。

次回・第19話では、いよいよ乳がんの手術を受けた日のことを書いています。

「温存か全摘か」で悩み抜いた選択についても、お話しします。

第19話はこちらから↓


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この記事を書いた人きゃんばぁば|乳がんサバイバー/家族の闘病サポーター

乳がんを経験し、経過観察を経てひとつの区切りを迎えました。

その後、妹の膵がん、夫の食道がんを家族として支えてきた経験をもとに、患者と家族の視点で記事を書いています。

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