夫を見送ってからも、忘れられない場面があります。
緩和ケア病棟で、何枚かの書類を書いてもらった日のこと。
がんで苦しんでいた夫に、亡くなったあとのための書類を書いてもらったことを、私は今も後悔しています。
あの日の声を、今でも覚えています。

夫と行った最後の家族旅行。ホテルのテラスから、息子たちが釣りをしている姿を眺めていました。
夫に書類をお願いした日
その日、夫には、携帯の名義を私に変える手続きや、委任状の記入をお願いしました。
夫は、理由を聞きませんでした。
緩和ケア病棟のベッドにしっかり座り、ベッドテーブルの上に書類を置いて、ペンを持ちました。
私はその横で、夫の手元を見ていました。

静かな時間の中で、書類に向き合ったあの日の場面。
「これでいいんやな」と言った夫
夫の手は、ときどき震えていました。
それでも、ゆっくり、丁寧に名前を書いてくれました。
一枚、また一枚。
そして、名前を書いていく夫を見ながら、私は思いました。
夫の書いた力強い字は、もう見れなくなるんかな。
何枚か書き終えると、夫が言いました。
「これでいいんやな」
いつもと変わらない声でした。
書類を書き終えた夫の顔は、私には少しほっとしたように見えました。

張りつめた時間のあとに訪れた、静かなひと呼吸。
夫の前では泣けなかった
書類をファイルに入れて、カバンにしまいました。
しばらくすると、涙をこらえられなくなりました。
夫の前では泣きたくなくて、病室を出ました。
廊下に出ると、涙が止まりませんでした。

ひとりになった瞬間、こらえていた気持ちがあふれました。
夫はまだここにいる。
それなのに私は、夫がいなくなったあとのための手続きを進めている。
そのことが、たまらなくつらくなりました。
病室に戻ると、夫はベッドに横になっていました。
夫から、眠れているときは痛みが少し落ち着いていると聞いていたので、眠っている姿を見て少し安心しました。
今でも夫に伝えたいこと
痛みが落ち着いているなら、まだそばにいてほしい。
あの日、書類を書いてくれた夫に、今でも伝えたい言葉があります。
がんでこんなにつらい状態だったのに、亡くなったあとのための書類を書いてもらったこと。
追い打ちをかけるようなことをしてしまったと、今も思っています。

今も心の中で、あの日の時間に語りかけています。
「ごめんね」
夫を見送ったあとの暮らしの中で感じたことを、これからも少しずつ書いていこうと思います。
▶ 夫がいなくなって変わった朝
▶ 夫の食道がん闘病記
Instagramでは、「がん その先へ」をテーマに、乳がんを経験したこと、家族のがん、夫を見送ったあとの暮らしや、今の気持ちを発信しています。
この記事を書いた人 きゃんばぁば
乳がんを経験し、現在は「がん その先へ」をテーマにブログを書いています。
患者として、家族として、そして私として。
夫を見送ったあとの暮らしや、これからの生き方を綴っています。
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