明日、結果を聞きに行く前夜の空気
治療に向き合い続けた夫と、そのそばで支えてきた私。
放射線治療後の評価となる検査結果を聞きに行く前夜、私たちは不安と緊張の中で長い夜を過ごしていました。
その夜の空気は、これまで経験したどの夜とも違っていました。

その夜の空気はこれまで経験したどの夜とも違っていました。
「きっと良い結果が聞けるはずだ。」
そう信じ込もうとする微かな希望と、足元から忍び寄る「もしもの現実が目の前に現れるかもしれない」という最悪の可能性の影。
その二つの感情が、部屋全体を重く覆っていました。
普段と違う、夫の「静かな」変化
夫はいつもの夫ではありませんでした。
言葉数が少なくなり、テレビをみていても頭に入っていないような、どこか「ここにいない」ような様子でした。

彼は今、何を考えているのだろう。自分の体のこと?それとも残されて時間のこと?あまり話しかけないほうがいいのだろうか?
私が尋ねたわけではありませんが、彼の内側が不安でいっぱいだと、隣にいる私には痛いほど伝わってきました。
彼は今、何を考えているのだろう。「自分の体のこと?それとも残された時間のこと?」
「私に余計な心配をかけまいとして、明るく振る舞おうとしているのだろうか。その推測こそが、私を余計に不安にさせている。」
普段と違う彼の姿を見つめながら、私は呼吸を意識的に深く繰り返すことしかできませんでした。
妻として私が選んだ「静かな接し方」
こんなとき、妻としてどう振る舞うべきか、正解がわかりませんでした。
「大丈夫だよ」と安易に励ます言葉は、帰って彼の不安を増幅させかねないと思いました。
結局、私が選んだのは「いつも通りを維持すること」、そして「言葉ではなく、存在で寄り添うこと」でした。

夕飯の話題は、明日のことには触れず、ごく普通のたあいない話に終始しました。
夫が黙っているときは、私もあえて話しかけず、ただ隣に座り続けることを意識しました。
横になったとき、そっと夫の手を握り「ずっとそばにいるよ」という無言のメッセージを送ることだけを心がけました。
「どうか治療の効果がありますように」祈るような気持ちと、明日がこわい気持ちが入り混じり、なかなか眠りにつくことができませんでした。
前夜の緊張を乗り越えて迎えた朝
翌日の説明を思うたび、夫がこれまで頑張ってきた姿が浮かびました。
手術、化学放射線治療、副作用との戦い….その全てが報われて欲しいと願うばかりでした。

不安と緊張の中で夜が明け、私たちは支度を始めました。
その夜交わした「静かな会話」は、特別な言葉はなかったかも入れません。
けれど、私たち夫婦が明日どんな結果が出ても「一緒に乗り越える」という無言の決意を固めた、大切な時間になったのだと思いました。
▶️次の記事:【第32話:夫の病気】治療の道が途切れた日。主治医から「緩和ケア」を告げられた私たちの現実へと続きます。
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note(有料シリーズ)
👉 第1話 夫が食道がんと告げられて〜ステージ1を信じてしまった私の後悔
👉 第2話 夫の食道がんと向き合って〜「どう生きたいか」を語り合った夜
👉 第3話 夫の治療方針が変わった日〜病院の中で見えた「見えない壁」
👉 第4話 治療中に「妻として聞けなかったこと」とあとで気づいた視点
きゃんばぁば|乳がんサバイバー/家族の闘病サポーター
乳がんを経験し根治。妹の膵がん、夫の食道がんを家族として支えた実体験をもとに「患者と家族、両方の視点」で発信しています。
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